◇ 広大な会津地域
 福島県会津地方は、千葉県と同じ面積を有する広大なエリア(面積約5,000k㎡)に人口約24万人が暮らす地域となっています。その地域には人口が密集する都市部の他、少子高齢化率が大きく進んだ山間へき地があり、救急医療体制の整備が十分でなく高度医療を要する場合、長時間搬送を要する地域もあります。病院や診療所が少なく大きな手術や治療を受けるには、通院時間に2~3時間をかけ、会津若松市内の病院に通院する患者も少なくありません。
 会津地方を代表する都市としては会津若松市となりますが、会津中央病院では、この広大なエリアをカバー出来るよう、救命救急センターを中心にドクターカーやヘリによる患者搬送システムを確立し、また各拠点の駅に外来受診の自動受付機を置くことで外来受診をスムーズに出来るようなシステムを構築したり、各町村と病院間の送迎バス運行を行なったりしています。
◇ 進む高齢化
 会津若松市の高齢化率は31.3%となっています。(全国平均の高齢化率28.6%)
 それに対し、奥会津と言われる山間へき地においては、只見町46.3%、三島町53.4%、昭和村55.8%、金山町59.3%となっており、地域によっては少子高齢化率は急速に進み、一人暮らしの世帯が多い地域があります。
 また、医師不足が問題となっており、大勢の住人に対して医師が一人しかいない地域もあります。そうした状況下においても、風邪や骨折、腹痛や胸が苦しいなど様々な症状を訴える患者は常に発生し、医師は1人でも内科や消化器科、外科や整形外科など、様々な疾患に対して診療が求められる事があります。
 へき地ではそうした地域の方の健康問題を解決するために必要な、総合的な能力・知識をもった医師「プライマリケア医」が必要となっています。プライマリケア医とは、あらゆる健康上の問題や疾病に対し、総合的・継続的に、そして敏速に対応判断出来る基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身に付けている総合医を指します。
◇ 会津中央病院の地域医療研修

 会津中央病院の臨床研修プログラムでは、2年間の研修中に4週間こうした地域での地域医療を学ぶプログラムが組まれています。
 研修は、それぞれの研修医が、どのような研修を求めるかによって地域を選択する事ができます。主な研修医療機関として、只見町にある朝日診療所、磐梯町にある磐梯町医療センター、猪苗代町にある猪苗代町立猪苗代病院などを自由に選択して地域医療研修を受けることが出来ます。その中のひとつ、只見町にある朝日診療所での研修は、へき地医療に対し真っ正面から向かい合い研修を行う事ができます。

 只見町は、会津若松市から車で2時間、人口5千人の新潟県と福島県との県境にある町です。鉄道は会津只見線が走っていますが、運行数は2時間~3時間に1本など、運行本数は多くはありません。平成23年7月の新潟・福島豪雨の影響により3ヶ所の橋が流失するなど甚大な被害を受け、現在も会津川口~只見駅間が不通となっており、代替バスによって運行されています。只見町は、雄大な山々に囲まれ自然豊かな町で夏は涼しく、比較的過ごしやすい気候ですが、冬は日本でも屈指の豪雪地帯でもあります。2~3mの積雪がある時には屋根の雪おろしをしなければならない地域となっています。
 ここでの地域研修は、診療所前にある寮に1ケ月間滞在し、診療所のスタッフや地域住民の方々と交流し研修を行っていきます。朝日診療所は、常勤医師4人、看護師9人、事務員など、その他職員10人ぐらいが働いている19床のベッドを持つ診療所。介護老人保健施設が併設されており、施設の入所者も外来を受診されます。常勤医師は4人ですが、非常勤医師による専門外来も行われており、他医療機関からの医療面でのサポートも受けながら診療を行っています。また、消防機関や行政、救命救急センターとの連携をとり、必要あればヘリコプターや救急車で専門病院まで搬送するシステムも確立されています。

◇ 1ケ月間の地域研修
 当院の臨床研修医であった廣瀨先生は、四国地方の出身で雪の経験が少ない中、あえて雪の降る12月に只見町朝日診療所での地域研修を選択し研修を行ないました。そこには、豪雪地帯での医療について身を以て体験し、診療所での外来診療や訪問診療に同行し地域住民の方々とのふれあいや医療事情を学びたいという理由がありました。
 朝日診療所は、只見町に住む5000人の住民の他、周辺地域からの患者も訪れます。この地域には、ここ1カ所しか医療機関がないので重要な拠点病院となっています。また、只見町で発生する年間200回程度の救急車の大部分をこの診療所で受け入れると共に、診療所で対応出来ない重症疾患については、南会津町の病院や会津若松市内の病院まで救急搬送しています。状況によってはDr.ヘリやDr.カーを要請して、会津中央病院の救命救急センターまで搬送し対応する事もあります。救急搬送の時間は会津若松市内の病院まで、ヘリであれば30分ぐらいですが、救急車による搬送だと2時間、冬は3時間ぐらいかかってしまいます。特に冬期間は、吹雪になると一寸先が見えなくなり前に進む事が出来なくなってしまうので、救急搬送の時には、行かずに診療所で診るか、病態だけでなく気象条件や搬送時間を考慮しなければならない為、重要な判断が要求されます。
◇ 日常スケジュール

 臨床研修医の地域研修の主なスケジュールについて紹介します。
 通常は、朝日診療所で外来診療や入院患者の診療を行っています。午前診療は9時から始まり、おおよそ13時すぎには終わり、そこから昼食となります。外来受診は予約制となっていますが、急患や当日受診の方もいるので、日々臨機応変な対応をしています。外来には、高血圧の患者さん、糖尿病の患者さん、腰痛の患者さんなど様々な患者さんが訪れますが、上級の先生の指導のもと、一人一人対応しております。整形の先生など専門の先生も週1回、外来に来て頂いているので、その先生に相談したり、対象患者さんをその外来に紹介したりして対応しています。午後の診療は14時に始まり、夕方17時には診療が終わります。上級の先生の配慮や当直などの当番制がしっかり組まれている為か、救急患者が発生しなければ、夕方18時すぎには、仕事も終え自宅に帰る事が出来ます。
 只見町での研修では、自分の時間を自由に使う事が出来るので、自宅では普段読めない本を読んだりテレビを見て過ごしています。時には、診療を行っていて疑問に思った事があれば、専門書を読み返すなどして勉強をしています。また、最近は雪道での車の運転も慣れ、車で1時間かけレンタルビデオを借りに行ったりしています。食事は、3食共に診療所の方で準備して頂いているので特に困りません。訪問診療の方も何度か同行しています。感じている事は、やはり一人暮らしの老人世帯が多い事。息子さんや娘さんが同居していたにしても日中は働きにいっている為か一人で過ごされている事が多く、意思疎通が難しい方も多いのが現状です。ここでの訪問診療は、医療行為だけでなく、その家族や社会的対応も考慮していかなければなりません。
 この地域研修では、大学や都市部の病院研修では体験出来ない、へき地医療を学ぶと共に、訪問診療に随行し在宅医療の介助、介護老人保健施設などでの地域医療を学ぶ事が出来ます。これから医師として活躍していく上で、これらの経験は大切なものになるのではないのでしょうか。

 

只見町国民健康保険朝日診療所

〒968-0442

福島県南会津郡只見町大字長浜字久保田31

電話番号:
0241-84-2221
診療所概要:
●病床数/19床●休診日/土・日・祝日●診療科目/内科・外科・歯科