〇 疾患や人と向き合う

会津中央病院臨床研修医の第一期生、中川大地と申します。平成18年に医師国家試験に合格し、臨床研修医として社会人の第一歩を踏み出しました。温かい会津の人々に育てて頂いた、もうすぐ10年目の医師です。
医学部に入学した時から、脳神経外科医になる夢がありました。会津出身の祖母が、長い間脳卒中と戦ってきた姿を、小さい頃からみていたからです。脳卒中という、一瞬にしてその後の人生を大きく左右しうる疾患を、なんとかしたいという気持ちが強かったのです。

研修医として第一歩を踏み出す環境は、非常に重要です。"三つ子の魂 百までも"という言葉の通り、我々若手は、医師としてだけではなく、社会人としても責任ある大人に育っていく必要があり、それには駆け出しの時代の環境が非常に重要だからです。臨床研修には様々なコースが準備されており、病院ごとに特色があります。何に重きを置くかは人それぞれですが、私は、"疾患と向き合う力" と、"人と向き合う力" を養うことを臨床研修に求め、会津中央病院を選びました。

〇 betterではなく現状におけるbestの医療の提供

会津中央病院は、福島県西部の広大な医療圏を担う第3次総合病院です。一般的な疾患から難病まで、患者が煩う疾患は多岐に渡り、大学病院に匹敵あるいはそれを越す1000床近くあるベットは常にフル回転です。24時間365日、どんな疾患を持つ患者でも受け入れる態勢を維持し、日夜患者の回復を祈って医療を続けています。地域に根ざした病院であると同時に、常に最新の医療機器と医学を取り入れ、betterではなく現状におけるbestの医療の提供を行っています。

会津中央病院での臨床研修の特徴は、"症例の多さ" だけではありません。"研修医を指導できる力" も特徴の一つです。20科を超える科を有し、救命救急センターを有した会津中央病院の臨床研修は、指導医に恵まれています。各科の指導医の指導の元、病院の中では一般的なcommon diseaseを豊富な症例を通じて学び、救命救急センターではドクターカーに同乗して現場へ駆けつけます。どんな疾患を持つ患者でも自分で診られるということにはなりませんが、"どんな患者でもまずは逃げずに自分で診る" という、医師として最も大切な姿勢を教わりました。

〇 研修医を指導できる力も特徴の一つ

研修当時の呼吸器外科岡田部長は、"医者という仕事とは、こういうものなのだ"ということを教えて下さいました。今の私の医師としてのスタンスは、すっかり岡田部長流です。循環器部長の管家部長と保坂部長は、"カテーテル治療とはアクロバティックではなく、きちんとしたことをきちんと行っていく、つまり、どんな時でもハンコを押したように同じ精度で手技をおこなっていくことが必要"ということを教えて下さいました。武市院長は、〝飛行機の中でお産を経験しても大丈夫な脳外科医"となれるよう、30を超えるお産や帝王切開に実際に加えて下さいました。麻酔科の渡部部長は、"どんな時でも正しくできる気管内挿管とその体位"を教えて下さいました。消化器内科の岩尾部長は、"脳神経外科医として多く遭遇するPEG(胃瘻造設術)とは何なのか"を教えて下さいました。救命救急の土佐部長は、"救急蘇生と高エネルギー外傷"を教えて下さいました。外科の島貫部長は、"V-P shunt(脳室腹腔シャント術)できちんと開腹できる脳神経外科医"となれるように、50以上の開腹術の全てに加えて下さいました。内科の南部長は、"脳卒中と深く関係のある糖尿病の治し方"を細かく丁寧に教えて下さいました。泌尿器科の長沢部長は、高齢者を多く診る脳神経外科医に必要な尿路感染症の治療について教えてくださいました。そして脳神経外科の前田部長は、"脳神経外科学のすべて"を教えて下さいました。9ヶ月間の脳神経外科研修で加わった手術は200件を超えていました。

私は医学を指導医より学び、渡部事務長や看護部長をはじめ、多くのスタッフから人間学を学びました。医師はもちろん疾患を治すことが仕事です。しかしそれだけではなく、人と向き合う職業でもあります。

日本には大学病院のような専門性に特化した病院と、"人" を診る一般病院があります。100人の医者で100人の患者を診ていく場所と、1人の医者が100人の患者を診ていく場所に分かれているのです。その両方が大切であり、現在の日本の医療はそれに支えられています。一般病院で1人の医者が100人の患者を診ていくためには、患者やその家族との信頼関係の構築が大切であり、"人" と向き合うことが職業である医師は人間学を学ぶことが必要です。会津中央病院のスタッフは、社会人のいろはを私に教えて下さいました。会津の温かい人々のご指導から、早いものでもうすぐ10年が経とうとしています。

〇 そのときの出会いが人生を根底から変えることがある

私は現在、東京大学大学院にてくも膜下出血の原因である脳動脈瘤に関して研究を行っています。一昔前までは、脳動脈瘤に対する治療は頭を開いて手術を行う以外に手段がありませんでした。しかし昨今の医療技術の進歩により、より低侵襲な血管内治療の勢いが加速しています。しかし血管内治療も完全ではありません。どうしたらより良く治療が行えるのか、1症例毎に3次元コンピュータグラフィックスを用いて解析を行い、それを治療へフィードバックしていきます。解析した結果は学会で発表します。1年間で発表する国内外の学会は10を超え、カナダや上海などの多くの国際学会でも英語で口頭発表してきました。一つの症例を大切にし、それを積み重ね、そしてまとめ、それを国内外の学会で発表していくという繰り返しは、今の私にとってかけがえのない経験と生き甲斐です。

"そのときの出会いが人生を根底から変えることがある"相田みつをの言葉です。会津中央病院と出会い、温かい会津の人々と出会い、そして育てて頂きました。医者となって10年目を迎えようとしている今、相田みつをの言葉の意味が少し分かるような気がします。"三つ子の魂 百までも"まだまだ駆け出しの若手ですが、人生の一番大切な駆け出しの時期に会津魂を分けて頂きました。様々なものを吸収し、それを自分なりの形にまとめ、世界へ発信していきたいと思っています。

◆ プロフィール

中川 大地 Daichi Nakagawa

神奈川県藤沢市生まれ 桐蔭学園高等学校卒業 国立富山大学医学部卒業
会津中央病院 臨床研修医(1期生) 会津中央病院 脳神経外科
東京大学医学部付属病院 脳神経外科 NTT東日本関東病院 脳神経外科
日本赤十字社医療センター 脳神経外科 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学博士(医学)過程入学
現在に至る

日本脳神経外科学会専門医 日本脳卒中学会専門医 日本医師会認定産業医