産科婦人科研修プログラム
■ 一般的目標
周産期・分娩・産褥期を通じ、母体と胎児・新生児の特徴を学び、特殊性を理解する。
女性特有の疾患を鑑別し、初期治療をおこなう。
■ 行動目標
  • 各妊娠週数に応じた母体・胎児の状況を診断することができる。
  • 分娩進行について理解し、正常分娩における分娩・産褥期の管理ができる。
  • 異常分娩の可能性が理解できる。
  • 産科出血に対する処置について理解する。
  • 婦人科性器感染症の診断・治療および予防ついて理解する。
■ 到達目標
  • 視診(一般的視診および膣鏡診)ができる。
  • 触診(外診、双合診、内診、妊婦のLeopold 触診法など)ができる。
  • 新生児の診察(Apgar score, Silverman score その他)ができる。
  • 妊娠の診断(免疫学的妊娠反応、超音波検査)ができる。
  • 感染症の検査(腟トリコモナス感染症検査、腟カンジダ感染症検査)ができる。
  • 超音波検査(ドプラー法、断層法(経腟的超音波断層法、経腹壁的超音波断層法))により、計測、正常・異常の判定ができる。
  • NST、分娩監視装置の診断ができる。
  • 正常分娩での簡単な縫合ができる。
産婦人科初期臨床研修
■ 研修の概要
女性の生理的、形態的、精神的特徴、あるいは特有の病態を把握し、プライマリケアにおける産婦人科の基本的な診療能力を習得することを目標とする。また、臨床研修終了後に産婦人科専門医を志すものにおいても、当科における研修がその基盤となり、広い知識、錬磨された技能と高い倫理性を備えた産婦人科専門医を養成することを念頭に置く。
■ 研修目標
  • A.一般目標
    1. 女性特有の疾患による救急医療を研修する。 卒後研修目標の一つは「緊急を要する病気を持つ患者の初期診療に関する臨床能力を身につける」ことであり、女性特有の疾患に基づく救急医療を研修する必要がある。これらを的確に鑑別し初期治療を行うための研修を行う。
    2. 女性特有のプライマリケアを研修する。 思春期、性成熟期、更年期の生理的、肉体的、精神的変化は女性特有のものである。女性の加齢と性周期に伴うホルモン環境の変化を理解するとともに、それらの失調に起因する諸々の疾患に関する系統的診断と治療を研修する。これら女性特有の疾患を有する患者を全人的に理解し対応する態度を学ぶことは、リプロダクティブヘルスへの配慮あるいは女性のQOL向上を目指したヘルスケア等、21世紀の医療に対する社会からの要請に応えるもので、全ての医師にとって必要不可欠のことである。
    3. 妊産褥婦ならびに新生児の医療に必要な基礎知識を研修する。 妊娠分娩と産褥期の管理ならびに新生児の医療に必要な基礎知識とともに、育児に必要な母性とその育成を学ぶ。また妊産褥婦に対する投薬の問題、治療や検査をする上での制限等についての特殊性を理解することは全ての医師に必要不可欠なものである。
  • B.行動目標
  • 医療人として必要な基本姿勢・態度
  • <患者 ― 医師関係>
  • 患者を全人的に理解し、患者・家族と良好な人間関係を確立するために、
    1. 患者、家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握できる。
    2. 医師、患者・家族がともに納得できる医療を行うためのインフォームドコンセントが実施できる。
    3. 守秘義務を果たし、プライバシーへの配慮ができる。
  • <安全管理>
  • 患者ならびに医療従事者にとって安全な医療を遂行し、安全管理の方策を身につけ、危機管理に参画するために、
    1. 医療を行う際の安全確認の考え方を理解し、実施できる。
    2. 医療事故防止および事故後の対処について、マニュアルなどに沿って行動できる。
    3. 院内感染対策(Standard Precautionsを含む)を理解し、実施できる。
  • <医療面接>
  • 患者・家族との信頼関係を構築し、診断・治療に必要な情報が得られるような医療面接を実施するために、
    1. 医療面接におけるコミュニケーションのもつ意義を理解し、コミュニケーションスキルを身につけ、患者の解釈モデル、受診動機、受療行動を把握できる。
    2. 患者の病歴(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活・職業歴、系統レビュー)の聴取と記録ができる。
    3. インフォームドコンセントのもとに、患者・家族への適切な指示、指導ができる。
  • <症例呈示>
  • チーム医療の実践と自己の臨床能力向上に不可欠な、症例呈示と意見交換を行うために、
    1. 症例呈示と討論ができる。
    2. 臨床症例に関するカンファレンスや学術集会に参加する。
  • <診療計画>
  • 保健・医療・福祉の各側面に配慮しつつ、診療計画を作成し、評価するために、
    1. 診療計画(診断、治療、患者・家族への説明を含む)を作成できる。
    2. 診療ガイドラインやクリニカルパスを理解し活用できる。
    3. 入退院の適応を判断できる(デイサージャリー症例を含む)。
    4. QOL(Quality of Life)を考慮にいれた総合的な管理計画(リハビリテーション、社会復帰、在宅医療、介護を含む)へ参画する。
  • <医療の社会性>
  • 医療の持つ社会的側面の重要性を理解し、社会に貢献するために、
    1. 保健医療法規・制度を理解し、適切に行動できる。
    2. 医療保険、公費負担医療を理解し、適切に診療できる。
    3. 医の倫理、生命倫理について理解し、適切に行動できる。
  • C.経験目標
  • 【経験すべき診察法・検査・手技】
  • <基本的産婦人科診療能力>
  • 1 - 病歴
    1. 主訴
    2. 現病歴
    3. 月経歴
    4. 結婚、妊娠、分娩歴
    5. 家族歴
    6. 既往歴
  • 2 - 産婦人科診察法  産婦人科診療に必要な基本的態度・技術を身につける。
    1. 視診(一般的視診および腟鏡診)
    2. 触診(外診、双合診、内診、妊婦のLeopold触診法など)
    3. 直腸診、腟・直腸診
    4. 穿刺診(Douglas窩穿刺、腹腔穿刺その他)
    5. 新生児の診察(Apgar score, Silverman scoreその他)
  • <基本的産婦人科臨床検査>
  • 産婦人科診療に必要な種々の検査を実施あるいは依頼し、その結果を評価して、患者・家族にわかりやすく説明することが出来る。妊産褥婦に関しては禁忌である検査法、避けた方が望ましい検査法があることを十分に理解しなければならない。
  • 1 - 婦人科内分泌検査(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
    1. 基礎体温表の診断
    2. 頸管粘液検査
    3. ホルモン負荷テスト
    4. 各種ホルモン検査
  • 2 - 不妊検査(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
    1. 基礎体温表の診断
    2. 卵管疎通性検査
    3. 精液検査
  • 3 - 妊娠の診断(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
    1. 免疫学的妊娠反応
    2. 超音波検査
  • 4 - 感染症の検査(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
    1. 腟トリコモナス感染症検査
    2. 腟カンジダ感染症検査
  • 5 - 細胞診・病理組織検査
    1. 子宮腟部細胞診
    2. 子宮内膜細胞診
    3. 病理組織生検
  • これらはいずれも採取法も併せて経験する。
  • 6 - 内視鏡検査
    1. コルポスコピー
    2. 腹腔鏡
    3. 膀胱鏡
    4. 直腸鏡
    5. 子宮鏡
  • 7 - 超音波検査
    1. ドプラー法
    2. 断層法(経腟的超音波断層法、経腹壁的超音波断層法)
  • 8 - 放射線学的検査
    1. 骨盤単純X線検査
    2. 骨盤計測(入口面撮影、側面撮影:マルチウス・グースマン法)
    3. 子宮卵管造影法
    4. 腎盂造影
    5. 骨盤X線CT検査
    6. 骨盤MRI検査
  • 必ずしも受け持ち症例でなくともよいが、自ら実施し、結果を評価できる。
    できるだけ自ら経験し、その結果を評価できること、すなわち受け持ち患者の検査として診療に活用すること。
  • <基本的治療法>
  • 薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬を含む)ができる。ここでは特に妊産褥婦ならびに新生児に対する投薬の問題、治療をする上での制限等について学ばなければならない。薬剤の殆どの添付文書には催奇形性の有無、妊産褥婦への投薬時の注意等が記載されており、薬剤の胎児への影響を無視した投薬は許されない。胎児の器官形成と臨界期、薬剤の投与の可否、投与量等に関する特殊性を理解することは全ての医師に必要不可欠なことである。
  • 1 - 処方箋の発行
    1. 薬剤の選択と薬用量
    2. 投与上の安全性
  • 2 - 注射の施行
    1. 皮内、皮下、筋肉、静脈、中心静脈
  • 3 - 副作用の評価ならびに対応
    1. 催奇形性についての知識
  • 【経験すべき症状・病態・疾患】
  • 研修の最大の目的は、患者の呈する症状と身体所見、簡単な検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することにある。
  • <頻度の高い症状>
    1. 腹痛
    2. 腰痛
  • ・自ら経験、すなわち自ら診察し、鑑別診断してレポートを提出する。
  • 産婦人科特有の疾患に基づく腹痛・腰痛が数多く存在するので、産婦人科の研修においてそれら病態を理解するよう努め経験しなければならない。これらの症状を呈する産婦人科疾患には以下のようなものがある。子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜炎、子宮傍結合組織炎、子宮留血症、子宮留膿症、月経困難症、子宮付属器炎、卵管留水症、卵管留膿症、卵巣子宮内膜症、卵巣過剰刺激症候群、排卵痛、骨盤腹膜炎、骨盤子宮内膜症があり、さらに妊娠に関連するものとして切迫流早産、常位胎盤早期剥離、切迫子宮破裂、陣痛などが知られている。
  • <緊急を要する症状・病態>
  • 1 - 急性腹症
  • 自ら経験、すなわち初期治療に参加すること。産婦人科疾患による急性腹症の種類はきわめて多い。「緊急を要する疾患を持つ患者の初期診療に関する臨床的能力を身につける」ことは最も大きい卒後研修目標の一つである。女性特有の疾患による急性腹症を救急医療として研修することは必須であり、産婦人科の研修においてそれら病態を的確に鑑別し初期治療を行える能力を獲得しなければならない。急性腹症を呈する産婦人科関連疾患には子宮外妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血などがある。
  • 2 - 流・早産および正期産
  • 産婦人科研修でしか経験出来ない経験目標項目である。「経験が求められる疾患・病態」の項で詳述する。
  • ■ 【経験が求められる疾患・病態】
      (理解しなければならない基本的知識を含む) 産科関係
  • 産科関係
    1. 妊娠・分娩・産褥ならびに新生児の生理の理解
    2. 妊娠の検査・診断
    3. 正常妊婦の外来管理
    4. 正常分娩第1期ならびに第2期の管理
    5. 正常頭位分娩における児の娩出前後の管理
    6. 正常産褥の管理
    7. 正常新生児の管理
    8. 腹式深部帝王切開術の経験
    9. 流・早産の管理
    10. 産科出血に対する応急処置法の理解
  • 婦人科関係
    1. 骨盤内の解剖の理解
    2. 視床下部・下垂体・卵巣系の内分泌調節系の理解
    3. 婦人科良性腫瘍の診断ならびに治療計画の立案
    4. 婦人科良性腫瘍の手術への第2助手としての参加
    5. 婦人科悪性腫瘍の早期診断法の理解(見学)
    6. 婦人科悪性腫瘍の手術への参加の経験
    7. 婦人科悪性腫瘍の集学的治療の理解(見学)
    8. 不妊症・内分泌疾患患者の外来における検査と治療計画の立案
    9. 婦人科性器感染症の検査・診断・治療計画の立案
  • その他
    1. 産婦人科診療に関わる倫理的問題の理解
    2. 母体保護法関連法規の理解
    3. 家族計画の理解
    ■ 研修項目(経験すべき症状・病態・疾患)の経験優先順位
  • 産科関係
  • 1. 最優先必修経験項目
    • 妊娠の検査・診断
    • 正常妊娠の外来管理
    • 正常分娩第1期ならびに第2期の管理
    • 正常頭位分娩における児の娩出前後の管理
    • 正常産褥の管理
    • 正常新生児の管理
  • 2次的必修経験項目
    • 腹式深部帝王切開術の経験
    • 腹流・早産の管理
  • 3次的経験項目
    • 産科出血に対する応急処置法の理解
    • 産科を受診した腹痛、腰痛を呈する患者、急性腹症の患者
  • 婦人科関係
  • 1. 最優先必修経験項目
    • 婦人科良性腫瘍の診断ならびに治療計画の立案
    • 婦人科良性腫瘍の手術への第2助手としての参加
  • 2次的必修経験項目
    • 婦人科性器感染症の検査・診断・治療計画の立案
  • 3次的経験項目
    • 婦人科悪性腫瘍の早期診断法の理解(見学)
    • 婦人科悪性腫瘍の手術への参加の経験
    • 婦人科悪性腫瘍の集学的治療の理解(見学)
    • 婦人科を受診した腹痛、腰痛を呈する患者、急性腹症の患者
    • 不妊症・内分泌疾患患者の外来における検査と治療計画の立案
    ■ 主な研修内容
    1. 手術症例が豊富であり、経験できる手術が多数あります。原則としてすべての手術に助手として参加し、基本的な手術手技から手術のコツまで習得可能です。可能な限りこれに参加します。
    2. 産婦人科は入退院が多く、患者の入れ替わりが激しい科です。その為、毎日午後5時からその日に入院した患者に関して検討会を行います。その際、研修医の方にプレゼンテーションしていただき、症例の理解や病態の予測・検査の進め方等考えていただきます。
    3. 分娩には積極的に参加していただきます。分娩はいつあるかわからないので、その都度臨時に研修に入ると了解してください。
    4. 毎週金曜日にfirst callで当直にあたっていただきます。Second callに指導医がつきます。
    5. IVF-ETや支給卵管造影・羊水穿刺・超音波収束装置による子宮筋腫の治療(東北では当院でしか使われておりません)など、特殊な治療や検査は、他の手術や分娩とのバランスを取りながら参加していただくようになります。