胸腔鏡手術でどのような利点があるのだろう?

胸腔鏡手術でどのような利点があるのだろう?

胸腔鏡手術での肺癌の治療は1994 年以来、きちんとした肺癌の手術ができるのか?本当に身体への負担は少ないのか?などの疑問点について世界中で研究されてきました。胸腔鏡手術の利害得失を表1にまとめました。手術時間は始めた頃は少し長い傾向がありましたが、現在では大きく胸を開かない分むしろ早くなってきたと言えます。手術中の出血量は少なく、筋層の破壊が極めて少ないことが手術後の検討でわかりました。

① 手術後はひどい炎症をおこすのではないだろうか?

手術をするため当然ある程度の炎症性変化が起きるわけですが、大きく胸を開く開胸に比べてその程度は軽いことがわかりました。

② 手術後はいわゆる免疫力が低下してしまうのではないだろうか?

人間はストレスを初め身体に被害が加わると免疫力が下がると言われていますが、これも胸腔鏡手術では軽度であることが判っています。

③ 手術後にちゃんと呼吸ができるのだろうか?肺機能はだいじょうぶだろうか?

肺の手術をするときには予定した手術をするとどのくらい肺機能が低下するのかを手術前に計算します。予測術後肺機能といいます。一定の基準を設定してあり、適切な切除肺の量を決めています。基準を大幅に下回る場合は手術そのものが危険となりますので、患者さんの状態に合わせた最もよい治療法を検討しています。胸腔鏡手術を受けた患者さんは大きく胸を開いた患者さんに比べて低下率は小さくまた早く回復することが判っています。その理由は呼吸に関係する呼吸筋への損傷が極めて小さいことにあります。

④ 心臓病あるいは昔から肺が弱いんだけど手術をしてもだいじょうぶか?

肺切除術は肺機能のみならず心肺循環といって心臓にも負担がかかります。負担が大きくなると急性肺性心といって一命にかかわることもありますが、徐々に負担が増えていく慢性肺性心も日常生活に大きく影響し余病の発症にもつながります。この心肺循環への影響を胸腔鏡手術と大きく胸を開く通常の開胸術と比較した研究では、胸腔鏡手術を受けた患者さんでの影響が小さいことがわかりました。これは手術後の心臓への負担を軽くすることになり、特に余病が多い高齢の患者さんでは有利な点です。

⑤ 胸腔鏡手術では手術が難しく危険なことはないのか?

あります。手術中のインシデント、アクシデントに関して詳細な研究がなされています。絶対安全な手術はないわけですが、外科医の修練とインシデント、アクシデントに対する対処法が工夫されより安全な手術になっています。

⑥ 術後合併症はどうなんでしょうか?

どんな手術でも傷の治りが悪いなど、何もないということはありません。とはいえ生命に係わるような術後合併症は回避されなければなりません。胸腔鏡手術も通常開胸手術も術後合併症の内容に本質的な差はありませんでしたが、胸腔鏡手術では重症化することが回避されていました。これは胸腔鏡手術による身体への負担が軽くなることにより患者さんの予備力、体力的貯金を温存できているためと考えています。

⑦ 手術した後普通に生活できるのかどうか不安です?

手術後の社会的活動能力(performance status, PS)の維持は極めて重要な問題です。特に高齢の患者さん、余病のある患者さんで顕著です。手術前と比べて手術後どれくらいPSが低下したかの検討で、胸腔鏡手術を受けた患者さんの術後の低下は軽度であり早期の社会復帰、日常生活への復帰を実現していました。

胸腔鏡手術で手術後の再発な どの予後は大丈夫なのか?


最も重要な問題です。肺癌外科治療の究極の目標は言うまでもなく長期生存の達成です。大きく胸を開ける通常開胸での生存率に劣るようであれば胸腔鏡手術を肺癌患者さんにお勧めすることはできません。我が国の肺癌外科治療の生存率は世界的にも最高レベルにあります。

日本肺癌学会ならびに日本呼吸器外科学会の調査によると、これまでの全体の肺癌外科治療の5 年、生存率は、Ⅰ A 期79%、Ⅰ B 期60%、Ⅱ A 期59%、Ⅱ B 期42%、Ⅲ A期28%、Ⅲ B 期20%、Ⅳ期19%であり、胸腔鏡手術を受けた患者の生存率は、Ⅰ期(ⅠA,ⅠB)1 年生存率100%、3 年生存率95%、5年生存率93%、(表2・3)10 年生存率63% であり、大きく開胸した患者さんの生存率より優れている傾向がみられましたが、これは負担が小さい分術後の体力の温存などによる面が大きいと考えています。

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