休職について
休職の対象となるのは?
休職になるかどうかは、病状だけでなく他のさまざまな要因に左右されます。例えば、小さな会社にお勤めの方の場合、休職すると退職に追い込まれかねない方もいます。大きな会社にお勤めで休職の制度が整っているような場合には、医学的必要性を優先して休職の適否を判断することができます。
しかし安易に休職すれば良いというものでもありません。休職は長引けば長引くほど復職へのハードルが高くなります。健康な人でも、長期連休明けの仕事は精神的にキツイものがあります。休職すると後々の昇進にひびくのが心配だということもあるでしょう。休職するかどうかは病状だけでなく、休職することによるメリットとデメリットを天秤にかけて、ご本人と相談して決めることになります。
いくつかのケースを挙げますので、ご自身の状況や希望と照らし合わせて考えてみてください。
- 会社に行けなくなってから初めて受診した場合
→ 多くのケースでは休職になりますが、休職のデメリットについて本人と良く相談させていただきます。
- 自分から休職を申し出てきた場合
→ 本当に医学的に休職が必要かどうか判断します。
- 休職が必要だが、経済的なことを気にして休職したくないという場合
→ お勤めの方で健康保険に加入していれば、休職期間中は月給の概ね2/3が傷病手当金として支給されます。
ただし所得の高い方は目減りします。傷病手当金は支給開始から1年半後までもらえます。
- 医師に休職を勧められているが、本人は休職のデメリット等から休職をしたくないと希望する場合
→ まずは本人の意思を尊重して仕事を続けてもらいます。しかし病状が悪化していく場合には、休職してもらいます。
休職期間は?
休職は長ければ良いというものではありません。
休職期間はなるべく短いに越したことはありません。休職が長くなれば長くなるほど、復職のハードルが上がります。軽症なら数日休んでぐっすり眠ればかなり回復します。病状によっては月単位の診断書を出すことがありますが、最大3ヶ月です。
3ヶ月以上の休職の診断書を出すことは原則的にはありません。専門の医師といえども、病状について3ヶ月以上先の見通しを立てることは難しいです。
例外的に、職場の都合やリクエストで3ヶ月以上の休職の診断書を出すことがあります。定型的な例が学校教員です。教員の場合は、学期が区切りになっているので、学期末や場合によっては学年末まで休職にすることがあります。
休職期間は、分かり易さのために「◯月末日まで休職を勧奨しました。」という書き方にしています。「◯月◯日から○ヶ月間」とすると、中途半端な日付になる場合もあります。医師や患者さん本人、そして会社側が混乱しないよう、明確な終了日がわかるように記載します。
休職中の過ごし方
休職中の過ごし方は、休職期間を三等分して考えます。
第1ステップ:がっつり眠る期間
こころの不調を治すのに一番重要なのは、ぐっすり眠ることです。良い睡眠が続けば、こころの不調は自然に良くなっていくものです。こころにも自然回復力があります。
なので、休職中の過ごし方の第1ステップは、「とにかくたっぷり眠る」ことが大切です。
10時間でも15時間でも眠ってください。なーんにもやらないでください。夜も眠って昼間もゴロゴロして、食っちゃ寝してください。家で仕事をしたり、パソコンをしたり、本を読んだりはやらないでくださいね。テレビをだらだら、ぼーっと見つつ、ウトウトするのがいいです。
1ヶ月以上休職になるほどの方は、長期にわたって不眠に悩まされているはずです。
蓄積した睡眠不足は、1日や2日程度、たっぷり眠っただけで解消できるものではありません。最低でも2週間は、たっぷり眠ることが必要なのです。
休職の最初の2週間怠け者になりきれるかどうかが、回復を左右します。怠け者になりきれる人は早く回復し、怠け者になりきれない人は回復が遅れます。
真面目で、仕事に対する責任感があって、他人へ気配りを欠かさない人ほど、こころからリラックスして怠け者になることができません。そういう性分だからこそ、こころの不調になるのかもしれません。
「自分だけこんなに怠けていていいのか?自分が休んで職場は大丈夫か?自分が休んだら職場が回らないはずだ、休職して家で休んでいる場合じゃない。こんなに怠けていたら仕事に復帰できなくなる」などなど、さいなまれます。せっかく休職しているのに、実のところ、こころは全く休めていないのです。
「自分がいないと職場が回らない。」と思っていても、いなきゃいないで、なんとか組織は回っていくものです。組織ってそんなものです。
休職開始してからの2週間程度は、夜ぐっすり眠って、昼間もゴロゴロしていたくなるようなお薬を意図的に処方します。昼間、少々けだるくなって、ぼーっとします。「薬を飲んだら、今まで以上にだるくなって、やる気もなくなった」と苦情を言わないでくださいね。だるくなって眠くなる人のほうが早く回復します。
ご家族の方も、どうかご理解ください。「そんな食っちゃ寝食っちゃ寝ばかりして、怠けているんじゃない!」なんて決して言わないでください。むしろ、家族の方から「今は怠け者になって、たっぷり眠るのが治療に一番大事なんだってよ。」と声をかけてあげてください。家族の対応は、こころの不調の回復具合に大きな影響を与えます。
第2ステップ:リラックス期間
たっぷり眠る期間で睡眠が充足してきたら、次はおうちでリラックスして過ごします。夜は8時間程度は、しっかり眠りましょう。眠ければ昼寝をしてもいいです。しかし第1ステップと違って、眠くなければ無理にゴロゴロする必要はありません。
昼間はやりたいことをやって、リラックスして過ごしてください。DVDを借りてきて見てもいいですし、漫画や本を読んでもいいですし、パソコンをやってもいいです。近所に買い物に出かけたり日帰り温泉もOKです。
やって良いか悪いかの区別のポイントは、自然な気持ちでやりたいかどうかです。例えば、「日帰り温泉に行ってリラックスしたいなー」と自然に思うなら、どうぞ行ってきてください。しかし「本当は億劫なんだけど、日帰り温泉に行ってリラックスしたほうが早く良くなるに違いない。」と考えているなら、行かないでください。スポーツや散歩や趣味も同じです。自然な気持ちでやりたいと思ったら、やりましょう。無理してやるなら、やめましょう。
この時期のキャッチフレーズは「夜はしっかり眠って、昼間はやりたいことをやってリラックスして過ごしましょう」です。
第2ステップのゴールは、こころの不調が改善し、家で暮らす分にはしんどくない状態です。
第3ステップ:復職調整期間
家で普通に暮らせるぐらいに回復しても、すぐに会社で働けるわけではありません。会社で働くには、家で暮らすより多くの体のエネルギーとこころのエネルギーが要求されます。第3ステップでは少しずつ活動度を上げていき、出勤にこぎつけるのが目標です。
どんなスケジュールで生活して活動をするかは、それぞれのやり方で良いのですが、一例を挙げておきます。次のような活動を1つずつ、だんだんと増やしてきましょう。
- 午前中にウォーキング1時間程度
- 夕方にウォーキング1時間程度
- 昼間は図書館で過ごす。開館と同時から17:00まで。
新聞を各紙読んだり、雑誌を読んだり、読書をしたり、パソコンをやったりなど。
ウォーキングの代わりにスポーツジムに行ったり、スイミングに行ったりしてもいいですね。
復職日の1週間前からは、通勤の練習として、朝、出勤時間に実際に会社の前まで行ってみましょう。ただし、この自主的な通勤練習で事故やけがが発生した場合には、会社や労災からの補償は受けられないのでご注意ください。
7:00前に起床、朝食を食べて身支度をして、通勤練習をして、午前中のウォーキングをして、図書館に行って、夕方のウォーキングをして、夕飯を食べてお風呂に入って、22:00に就寝というパターンを1週間以上継続できたら、復職準備は万端です。
職場復帰支援について
はじめに
厚生労働省は、メンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、事業場向けマニュアルとして、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を作成し公表しています。この手引では、個々の労働者に対して職場復帰支援プログラムを策定し実施することを求めています。
職場復帰可能の診断書を発行するのは病院の主治医です。しかし実際に復職させるかどうかを最終的に判断するのは事業者です。職場復帰支援プログラムを策定し実施する主体も事業者です。この理由の一つは、主治医は、労働者が従事する労働環境を詳細に把握できる立場にないからです。その労働者に、どのような、そしてどれほどの労働負荷がかかるのかを、主治医が把握することが困難だからです。職場復帰支援についても、労働者が日々業務に従事する様子を観察しながら対応していく必要があるため、主治医より事業者のほうが実施主体として相応しいと考えられます。
従業員が50人以上の事業場では、法律上、産業医が選任されることになっています。産業医は、その事業場に出入りしてるわけですから、労働環境を具体的に把握できる立場にあります。それ故、主治医より産業医の方が、職場復帰について適切な判断が可能であろうとみなされています。手引きでは、産業医等からの意見を聴取した上で、事業者が復職可否の判断を行う旨が示されています。産業医の選任義務がない従業員が50人未満の事業場では、地域産業保健センター(通称 地産保(ちさんぽ))等を利用することとされています。地域産業保健センターには産業医が配置されています。地域産業保健センターの上位機構である産業保健推進センターは、全国47都道府県に1箇所ずつ設置されています。
本ホームページで提供する情報は、厚生労働省による「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の補足的内容なので、まずはこちらの手引きをご一読ください。
職場復帰支援プログラム
主治医からの診断書に「◯月◯日より復職を許可しました。」とか「◯月◯日から復職可能です。」などと書かれていても、その日から復職させなければならないわけではありません。復職日は産業医等の意見を聴いて事業者が決めることとなっています。診断書の日付は、「その日付以降なら復職可能ですよ。」という意味です。
主治医から復職可能の診断書は出たが、労働者の実際の業務の負担を考えると、復職はまだ早いと事業者が判断した場合は、復職を延期することは差し支えないのです。
最終的な復職可否および復職日は、産業医等の意見を聴いて事業者が事業者の責任で決定するものです。
また、復職日はソフトランディングを考えて、柔軟に設定しましょう。ついつい、月初めの1日や週初めの月曜日にしがちですが、土日が休みの会社であれば、復職日はあえて週の途中の木曜日にします。その方が心理的な負担が軽いからです。
例えば、年末年始休暇などの長期連休開けが月曜日から始まる場合、皆さんも「あー、休み明けは月曜日からびっしり1週間仕事だな」と憂鬱になりませんか?せっかくの休みなのに、休暇の後半に入ると、仕事のことを思い出して心穏やかにいられないこともあるでしょう。長期休暇開けが木曜日から始まる場合だと、「2日出勤すれば、すぐ土日で休みだな」と思って、気持ちが軽いはずです。通常の長期休暇は長くても10日くらいですが、こころの不調による休職だと1ヶ月以上が普通です。10日程度の長期連休開けで憂鬱になるのですから、1ヶ月以上の休職明けが月曜日から始まる場合の精神的負担は非常に大きいことは想像できるでしょう。ソフトランディングが原則の職場復帰支援プログラムでは、復職日は木曜日が良いのです。また、土日がお休みでない職場の場合は、2日出勤したら休みが来る日に復職日を設定するのが良いでしょう。
復職日に連休が絡む場合も同様です。「連休明けからの復職にしましょう」としがちですが、連休前に復職日を設定したほうが良いでしょう。「〇日頑張れば連休だ」と思えば頑張れますからね。復職日はあえて、ゴールデンウィーク前やお盆休み前、年末年始休暇前に設定します。飛び石連休の前は、最も復職日に適した時期です。復職日は、連休前が良いでしょう。
休職期間が2週間未満と短い場合は、復職初日から1日勤務で開始というやり方でも良いかもしれません。しかし休職期間が長い場合は、時間短縮勤務で初めた方がいいです。
時間短縮勤務には、午前半日勤務、午後半日勤務、10時~12時、10時~14時などいろいろなパターンがあります。ソフトランディングの観点からは、10時~12時までの勤務を1週間、10時~14時までの勤務を1週間、始業時間~15時までの勤務を1週間、その後、所定労働時間の1日勤務へと徐々にステップアップしていく方法などが考えられます。
しかし労務管理が複雑になったり、10時からの出勤では中途半端で仕事にならないなどの理由により、多くの職場において、ここまで小刻みなステップアップを実施するのは難しいでしょう。そこで実施可能であろうモデルをご紹介します。
職場復帰のモデルパターン
(復職日を木曜日に設定した場合)
スクロールできます
期間 | 勤務形態 |
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復職から2週間 (木曜日から2週後の水曜日まで) | 午前半日勤務 |
3週目~6週目 (4週間) | 残業なし1日勤務 (所定労働時間) |
7週目~10週目 (4週間) | 1日1時間まで残業可 |
11週目以降 | 残業制限解除 (一切の就業制限解除) |
上記のようにする理由としては、午前半日勤務を2週間以上にすると、本人から見ても、職場の同僚から見ても長すぎるように感じられるということが挙げられます。
復職可能の判断は、「1日勤務が可能な状態まで回復した」というのが前提です。ですから、理屈上は1日勤務から開始することもありです。しかし、実際に1日勤務から始めると、すぐにまたダウンしてしまう懸念があります。そのため、午前半日勤務にしているわけです。
主治医の見立てどおり1日勤務が可能な程度まで回復している状態であれば、午前半日勤務を2週間やれば、本人も「そろそろ1日勤務を」という気持ちになるのが普通です。また、周りの同僚も午前半日勤務の期間が長すぎると、「この人はいつまで早帰りを続けるのだろう」という目で見るようになるでしょう。本人も、そのような目で見られるのは辛いと感じます。ですから、午前半日勤務は2週間が丁度良いのです。午前半日勤務が2週間では短すぎるという場合は、そもそも復職可能の判断が早すぎた、と考えるべきでしょう。
順調に経過すれば、2週+4週+4週=10週(約2ヶ月半)で、一切の就業制限が解除されます。
ただし、残業制限が解除されたからといって、毎日毎日3時間も4時間も残業を課してよいわけではありません。実際どれくらいの残業を課すかは、職場の繁閑と、本人の体調に合わせることが必要です。職場の責任者と本人が相談しながら、過剰な負担にならないように残業時間を調整するのが良いでしょう。
復職後も、ほとんどの場合において内服や通院が継続されます。2週~4週に1回、状態が良ければ2ヶ月に1回程度の通院です。通院日は、丸1日休みを取らせるように配慮してあげましょう。通院の日は1日休めるんだと思うと、気持ちが楽になります。また、メンタル系医療機関は混雑していることが多く、待ち時間が長くなりがちです。半日休暇で出勤しようとすると、気ぜわしくなり精神的に疲れてしまいます。
職場から休職者への連絡について
職場の上司の方から、次のような質問を受けることがあります。
- 休職者に連絡を入れた方がいいのか?入れない方がいいのか?
- 定期的に連絡を入れて、病状を聞いたほうがいいのか?
- 連絡を入れて、元気付けたり安心させる言葉をかけたほうがいいのか?
- 連絡を入れる頻度はどれくらいがいいのか?
- 業務上連絡が必要だが、連絡を入れてもいいのか?
(業務について本人でなければわからないことがある、本人に伝えなければならない連絡事項がある等)
休職者への会社からの連絡については、次のようにするのが原則になっています。
「健康管理部門が1ヶ月に1回、休職者と連絡を取り合い状態を把握する」
「職場の上司等から直接連絡を入れるのは、どうしても必要な時だけに限る」
メンタルヘルス不調による休職者は、「会社」に関連するあらゆることに対して、強いストレスを感じます。会社から連絡が入ることも、会社という場所に近づくことも怖い、という心理状態にあります。会社から連絡が入ると、病状を悪化させかねません。ですから、必要がないかぎり会社から本人に連絡を入れないのが原則です。
では、全く連絡を入れないでいいか?と言えば、そうではありません。労働安全衛生法上、会社側には労働者に対する安全配慮義務が課せられており、休職者の健康状態を把握しておく義務があります。どのくらいの頻度で健康状態を把握すれば良いかですが、1ヶ月に1回くらいが良いでしょう。1週間に1回では多すぎて、1ヶ月に1回も連絡しないのは少な過ぎるといったところです。
長期に休職した場合は、多くの場合、健康保険に傷病手当金を請求します。傷病手当金とは、健康保険から休職者に支給される生活保障的な手当です。傷病手当金を請求する際は、傷病手当金請求書が必要になります。この書類には病状に関する医師の記載欄があります。傷病手当金の請求は1ヶ月ごとに1回行うのが通常のパターンです。この際、傷病手当金請求書を会社と本人でやり取りすることになるので、必然的に1ヶ月に1回、連絡を取り合うことになります。会社は、傷病手当金請求書から休職者の健康状態を把握することができます。以上のことから、健康管理部門が1ヶ月に1回、休職者と連絡を取り合って健康状態を把握するのが適切と考えられるようになっています。
主治医との面接依頼について
職場の担当者の方から「従業員の〇〇さんについて、本人がいないところで主治医と直接会って話がしたい。」と依頼が来ることがあります。この依頼には2つの問題があります。1つは個人情報の問題です。職場の方に、従業員さんの情報提供を行う場合は、本人も一緒に立ち会うことが原則です。もう一つの問題は、情報提供にかかる料金の問題です。診察以外の場面で職場の方に情報提供を行った場合は、別途料金を請求することになります。しかし、このようなことはあまり一般的ではないでしょう。今のところ、患者さんの診察の時に職場の方にも一緒に入って頂き、診察と合わせて情報提供するのが普通です。どうしても本人抜きで話がしたいという場合には、その場で承諾をとって本人に席を外してもらい、お話をさせて頂くことになります。
職場の方が相談に来る場合は、病院への事前の連絡は不要です。本人の受診に合わせて一緒にいらっしゃってください。その際は、厚労省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を事前にお読みになっておいてください。そうすれば、外来診療の限られた時間の中で、ポイントを絞って情報提供することができます。