がん治療センター所長 柴田 昌彦
がん治療センターの取り組み 会津中央病院と福島県立医科大学との連携とは
がん治療センターの取り組み
会津中央病院と福島県立医科大学との連携とは
背景
人口減少や少子高齢化問題が急速に進む会津地域。高齢者の増加と、医療従事者(介護も含む)不足は、近い将来、日本全体が抱えることになる課題です。福島県立医科大学と会津中央病院は、今後起こる問題を予想し、地方の医療のあり方を見つめ直し、地域だけにとどまらない全国のモデルケースになるような様々な取り組みをスタートさせました。専門医不足と地域医療の格差を解消しながら、誰でも先進的な治療が受けられる「がん治療の実現」を目指す。その構想について、福島県立医科大学 理事長兼学長 竹之下誠一先生と会津中央病院 がん治療センター所長 柴田昌彦先生に話を聞きました。(聞き手 会津中央病院 成田 尚也)
― 会津中央病院と福島医科大学との連携について
がん治療センターの設置構想は、2020年2月、福島県立医科大学に立ち上げた地域包括的癌診療研究講座に端を発します。人口減少や、社会の高齢化に伴い、新しい医療提供体制の在り方が、福島県のみならず 全国で模索されています。広い県土を持つ福島県においても、大学病院に所属する専門医による定期的な出張によって地域の専門的な医療を支えることには限界がありました。加えて、会津地域は急峻な山に囲まれた地理的要因や、特に冬季の気象条件により、住民の皆さまの移動そのものが困難な地域でもあります。がん治療のように定期的な診察、治療を行うには、患者さんにとっても心身ともに大きな負担が掛かっていました。このような課題を解決するため、講座主任となった柴田昌彦先生を中心に、地域の医療機関と連携したがんの検診、診断、治療を包括的に実践していくための研究が開始されたのです。そして2年間にわたる研究と 検証を経て得た結論が、この「会津中央病院 がん治療センター」でした。すなわち、地域の中核となる場所に近隣の医療資源を集約し、高度な医療提供が可能な拠点として、患者さんが移動等による大きな負担を感じることなく、必要な時に、必要な治療を受けることが出来る医療機関の設置です。
― 会津地域の医療問題について
柴田所長:
日本の人口は減少しています。2024年には50歳以上の人口が5割超え、2040年以降は、労働人口が激減し年金や医療費などの社会保障費も増大することが予想されています。医療従事者(介護も含む)不足も例外ではありません。会津地域は山間僻地を有し、高齢化率が60%を超え、少子高齢化が急速に進んでいます。今後、限界集落の増加、通院難民や無医村問題など課題は様々です。現に、会津中央病院には、南会津町や只見町、金山町をはじめ奥会津から、通院に片道2時間以上をかけて受診されている患者さんもおられます。このまま放置しておけば、医療を安定的に提供する事が出来なくなるだけではなく、医療レベルが低下し世の中の医療に追いついていけなくなることが大きな問題です。
― 過疎や遠隔地の医療課題に対しての解決策として
柴田所長:コロナ禍で在宅勤務やワーケションにより、ITを利用したシステムが普及しました。医療においても、オンライン診療や電話診療などが身近なものとなりました。医療ロボットダヴィンチも遠隔操作で手術が可能です。電子処方箋の普及により、ドローンでお薬が届く時代も近い将来あるかも知れません。通院においては、近隣市町村と連携したバスの運行、自動配車システムによるオンデマンドバスやタクシー、自動運転による無人バス運行などが考えられます。がん治療においては、入院治療以外に、近隣ホテルと提携し滞在型医療の実現を検討していきたいと考えています。ここ会津若松市はスマートシティ構想を実現するため、全国より先進企業が集まっております。会津大学や各企業とも連携しこの医療問題の解決に向けて取り組んでいこうと考えています。
会津中央病院 がん治療センターの特徴は
柴田所長:都心のがんセンターのような巨大な組織では研究に直結した治療をそれぞれ完遂できますが、地方都市では、すべての治療分野において、それを可能にすることは難しいです。患者さんは希望する治療を受けるためには複数の病院を掛け持ちで受診しなければならないことも度々あります。今回のがん治療センターには放射線治療機器として評価の高いVarian True Beamという最新鋭のものを導入し、手術療法、がん化学療法、放射線治療、緩和医療、アピアランスケアなど、総合的にがん治療ができる施設を誕生させ、この会津地域にいながら、高度医療が受けられる体制を整えました。医療設備や医療スタッフを1箇所に集約し大学病院と連携することにより、地方においても都市部との医療格差をなくすことが出来ると考えています。
― 最新のがん治療 について
竹之下理事長:がんの治療においては、その種類、ステージ、患者さんの身体や精神の状態、生活の様子など、患者さんの状況に合わせて、複数の治療法を組み合わせて行う集学的治療が、いまや当たり前となっています。このがん治療センターでは、特に会津地域で実施できる医療機関が少なかった最先端の放射線治療に加えて進歩の著しい分子標的薬などの化学療法、オプジーボなど第4の治療法として脚光を浴びている免疫療法など、最新の幅広いがんの治療法を集約、充実させました。さらに福島医大との連携を強化することで、大学病院で治療を受けるのと変わらない医療水準を確保することも出来ました。会津地域に住む住民の皆さまにとっては、入院治療のために、住み慣れた街を遠く離れることなく、高度で緻密な集学的治療を受けることが可能となり、大きな安心をもたらす施設となることは間違いありません。
― がん医療における福島医大と会津中央病院の連携について
柴田所長:会津中央病院の手術レベルはすでに高度であり、ダヴィンチロボットを所有しております。放射線治療装置は、福島医大と全く同じシステムを導入しました。つまり、オンライン共同治療計画システムの導入により、会津地域で福島医大と同じ放射線治療ができるようになります。さらに、福島医大とオンラインで治療計画の作成や治療の確認を行う予定で、場合によっては、福島医大の放射線治療を当院の医師が行う場合も想定されます。また、福島医大では、高精度放射線治療の他に、免疫療法と放射線治療を併用する、免疫放射線治療の開発に力を入れており、会津中央病院も協力していきたいと思っています。
― 日本の将来的な地域モデルケースづくりへ
柴田所長:医療サービスの地域格差などをなくし、地方においても先進的な治療が受けられる「がん治療の実現」を実行しなければなりません。それには、会津地域が一体となり、様々な問題を解決に向けて取り組んでいかなければなりません。医療設備を導入しただけでは高度医療は提供できません。医療従事者の養成や教育システムの確立も必要です。また、ICTを活用し業務の効率化により業務量を軽減させ、更なる技術向上を目指します。福島医大との連携により、教育システムや医療システムを利用した治療や医療サービスの提供、通院難民に対してはオンデマンドバスやオンライン診療など、その課題は様々です。
竹之下理事長:地域における専門的医療の提供を維持することは、今のままでは、今後ますます困難になっていくものと思います。その課題解決の必要性はこれまでも常に叫ばれてきたものの、「いずれ誰かがやるはず」という期待ばかりが先行していたのではないでしょうか。「誰かがやるはず」なのであれば、私たちこそがその「誰か」になることを目指していきたいと思います
まとめ
これらの問題は、大学や病院だでなく、行政や民間企業など、その問題解決に向け、会津が一体的になって進めなければなりません。会津若松市は、ICT・IoTなどの環境技術などを活用したスマートシティ事業を推進し、地方創生・地域活性化などのプラットフォームの拡張を進めています。そうした連携が、会津モデルを創設し、地方創生につながっていくのではと感じます。本日は、福島県立医科大学理事長兼学長 竹之下誠一先生と、会津中央病院がん治療センター所長 柴田昌彦先生にお話を伺いました。