乳腺外科部長 旭 修司
乳がん診療の取り組み
がん治療センター
乳がん診療の取り組みとは
内分泌・乳腺外科部長 旭 修司
2003年に乳腺専門外来、2004年に内分泌外来(乳腺疾患、甲状腺副腎疾患など)が設立され、より専門性の高い診療を目指してまいりました。当初の目標として会津地区における乳房温存率の向上、最新の診断治療の実践、新たな知見の発信といったことを掲げました。初回の乳癌の治療法は主に手術、放射線治療、薬物療法があり、病理検査や術式によって治療計画を検討します。再発例では薬物療法が基本ですが、一部の症例で放射線治療や手術がおこなわれます。現在当科の乳癌手術は年間80件前後、化学療法はのべ450件、放射線治療は60件前後と県内有数の治療実績を持つようになりました。当科の18年の歩みについて述べていきたいと思います。
― 早期診断
私が着任して間もなく、画像ガイド吸引組織生検装置が県内2施設目で導入され、おもにマンモグラフィーでカテゴリー3以上と判定された従来診断が困難であった石灰化病変に対して積極的早期診断を行ってきました。豊富な検査件数があり、3割の方が悪性(おもに0期)と診断されました。当院の手術症例の17%が0期であり早期診断に寄与しています。乳房トモシンセシス(3Dマンモグラフィー)や3テスラのMRI(従来の1・5テスラMRIよりも高精度)などの医療機器もいち早く導入され、正確な病変の特定に役立っています。
― 整容性、侵襲性に優れた手術療法
過去には乳癌というと会津地区では全摘もやむなしとのイメージもありましたが、当院では約7割まで乳房温存率が向上し、新たな試みとして症例によっては傷の目立たない内視鏡的手術も選択できるようになりました。内視鏡的手術は県内でもほとんど行われていないものです。
乳房温存が困難な方には乳房再建をみすえた乳頭乳輪温存乳房切除術も早くから開始しています。これは乳頭乳輪を再建しなくてよいメリットがありますが、乳頭下の乳腺がわずかに残るため一定の条件を満たす場合に行われます。
ラジオアイソトープを併用したセンチネルリンパ節生検は手術中にリンパ節転移がないことを確認し、腋窩リンパ節郭清を省略する方法で上肢のリンパ浮腫のリスクや腋窩の違和感を軽減できるテクニックです。当院でのリンパ節採取個数は1・8個、転移陰性率は80%程度です。
― 乳房再建について
乳房再建には乳房切除後に自家組織(自分のおなかや背中からの組織)を用いる方法とシリコンなどの人工物を用いる方法があります。後者はエクスパンダー(皮膚拡張器)を留置しスペースを確保したのちにシリコン製の人工乳房を入れ替える手術が行われます。最近は初回手術と同時にエクスパンダーを留置することも始めています
積極的な術前化学療法の推進
初回の針生検で腫瘍細胞のホルモン感受性やHER2蛋白、増殖能を検討します。全体的な治療計画の中で化学療法の利益が多いケースでは術前化学療法を積極的に推進しています。腫瘍縮小による温存率の向上という側面はありますが、薬剤の効果判定により術後再発リスクの評価が何よりも重要と考えています。完全奏効
(腫瘍消失)例ではほぼ完治が期待され、それ以外の例では追加治療により再発のリスクを低下させる努力をします。
― 新たな治療の発信
乳房温存術後の局所放射線治療は従来25〜30回(5〜6週)の連続通院が必要でしたが、密封小線源による3日間の照射期間で完了する方法です。欧米では治療効果の非劣勢が示されていますが国内では治療実績に乏しくあまり行われていません。会津地域は医療圏が広く継続した通院困難な方もおられるため地域性に合致した治療と考えています。日本で2番目の症例数となり学会に招待されるまでとなり目標の一つを達成しました。ただ残念ながら病院にとって経済的負担が大きいため医療機器の更新ができず、現在は休止しています。
乳癌の薬物療法は日々進歩しており、新規薬剤や適応追加される薬剤が増加しています。私が医師になったころより明らかに生存率や生存期間が延長していることを実感します。副作用対策は重要で、他職種間の連携が求められています