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がん治療の現状について ~免疫治療からロボット手術まで~

会津中央病院 がん治療センター所長 
渡部 晶之

肺がんについて

 肺がんについて、まず簡単に一般的なお話をします。日本における死因の第1位はがんなのですが、部位別で見ると、死亡率の第1位は今のところ肺がんになっております。性別で見ますと、男性のがんの死亡率では1番が肺がん。2番目が大腸がんです。胃がんはちょっと減ってきている状況です。女性ですと大腸がんが一番多くて、 2番目に肺がんが多いという状況です。

 肺がんとひとくくりに言いましても、種類がいろいろありまして、まず小細胞肺がん非小細胞肺がんに分けられます。小細胞がんはかなり進行が早くて予後が悪く、見つかったときにはステージⅣであることが多いので分けられています。非小細胞肺がんの中でも腺がんが一番多く、扁平上皮がん、大細胞がんとその他のがんとカルチノイド(がんに似た性質を持つ腫瘍)などに分けられております。外科治療対象となるのはだいたい非小細胞肺がんになっております。肺がんは予後が悪く、ステージⅠでも5年後ご存命の方が75%程度。ステージⅣですと大体10%以内くらいとされております。

肺がんの治療法

肺がんの主な治療法としては、手術、放射線治療、薬物療法があります。ステージ別、組織別に治療方針が決定されます。最近では遺伝子異常を調べたり、患者さんの全身の状態や年齢、合併症の有無などによって治療方針が変わってきます。

 ステージⅣの肺がんですが、他のがん種と同じように、まず「ドライバー遺伝子」というものを調べます(*ドライバー遺伝子とは、がんの発生、増殖、進展に直接的な原因として関与する遺伝子変異のこと)。ドライバー遺伝子異常が陽性であれば、ステージⅣの場合分子標的治療薬というものを。陰性であれば免疫チェックポイント阻害薬抗がん剤などを組み合わせて治療を行います。

 分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が出てきて、非常に指数関数的に平均生存期間が延びたというのが現状です。ステージⅠからⅢの治療方針としては、メインは手術となります。その後、手術後の補助療法をやるかどうかということになります。また、ステージⅢB/Cで合わない方は、放射線治療と抗癌剤を組み合わせて免疫チェックポイント阻害薬を投与、という治療の流れになります。

 最近ではステージⅡからⅢBの方に関しましても、手術したほうがよい方に関しましては、免疫チェックポイント阻害薬を含む手術前治療を行ってから手術を行うのが標準治療となりました。

何故そうなったかというと、ニボルマブという免疫チェックポイント阻害薬を使った試験がきっかけです。その試験では、無再発生存期間がニボルマブ併用群で31.6か月、抗がん剤のみだと20.8か月という結果になりました。ニボルマブ併用群の場合手術をして見てみると、がん細胞が全然いないというのが24%の方で見られました。これをきっかけに術前治療が標準治療となっています。

肺がんの手術について

 呼吸器外科で手術する代表的な疾患としては、肺がん、大腸がんや乳がんの転移、膿胸、感染症や多発肋骨骨折、悪性胸膜中皮種などがあります。左右の肺に挟まれた縦隔に関しては、胸腺種、胸腺がんが多くあります。

 肺の切除範囲としては、最も一般的なのが胚葉切除です。肺葉という肺のある程度大部分を摘出します。次に区域切除部分切除です。これらはがんがある一部分だけを切除します。最近では肺全摘出はほとんど行われておりません。全摘出は逆に予後が悪いんじゃないかという見解もある状況です。

 区域切除や部分切除の切除範囲の決定に関しては年齢などによって変わります。また、すりガラス状の病変、転移性の肺腫瘍であれば肺がんと違うので、部分切除で終わることがあります。呼吸機能が悪い方などは、肺がんでも区域切除を行ったりして肺をなるべく残すようにしております。

 肺は肋骨に囲まれてますので、どのように手術するかが重要です。以前は胸を大きく切開する開胸手術で行っておりましたが、その後胸腔鏡下手術という手術方法がメインで行われるようになりました。胸腔鏡下手術では大体1~3箇所小さな穴を開け、カメラと器具を挿入しモニター映像を見ながら手術を行います。

 最近では「ダヴィンチ」という手術ロボットも出てきており、そういったロボット手術が今メインとなっております。

 2年前の手術件数で見ると、ほぼロボット支援下手術が過半数を占めております。肺葉切除は62%。区域切除は93%。縦隔腫瘍のロボット手術が74%で、今年はほぼ100%。縦隔腫瘍に関しましてはロボット支援下に行っております。

 ロボット手術のメリットをいくつかあげます。まず拡大視がすごいので細い血管まではっきりと見えます。手ぶれ補正機能があって震えたりもしません。傷が小さく、助手が一人で十分なので、大体二人いれば手術ができます。

 一方でデメリットとしては、ロボット手術なので触覚がありません。また、準備などで少し時間がかかります。急な出血の対応が遅れたり、費用がかかるという点もデメリットだと考えております。

肺がん治療の薬について

 最近の肺がん治療では、免疫チェックポイント阻害薬が中心となっております。2018年に本庶佑先生がノーベル医学生理学賞をとった「ニボルマブ」ですね。

 がん細胞はT細胞(白血球)に対し抑制シグナルを出しています。そこで免疫チェックポイント阻害薬を使ってその抑制シグナルを解除して活性化させる、というのが基本的な治療法です。効果には個人差がありますが、効果がある人はかなり効きます。

 そうした免疫治療ができたことで、進行肺がんの治療概念が大きく変わってきました。2004年の肺がんに対する抗癌剤のデータでは、生存期間が右肩下がりに薄くなっておりました。しかし免疫治療を行うことで、生存期間が長くなっております

 一方で効果がない人もいます。効果がある人が大体20~25%程度とされております。どういった基準で違いが出るのか不明なところもありますので、今後そういったところが研究課題になるかと思います。

免疫治療の効果

 私が経験した免疫治療の方で、77歳の女性でステージ4Aの肺腺癌の方がおりました。この方にも免疫チェックポイント阻害薬をかなり処方しまして、現在83歳ですけど、ガンも消えて元気に外来通院されております。

 次に74歳の男性の方です。ステージⅢB/Cの肺腺癌ですけど、この方はIOIOという治療法の併用療法を1コース行いました。しかしそこで大腸炎のグレード3の副作用が出たので、1コースのみで投与を終了しました。しかし現在も再発なく完全寛解しております。こういった治療を見てしまうと、免疫療法効く人は本当に効くんだなっていうのを実感しました。

 免疫治療ですが、これまでは腫瘍を切除してから免疫治療を行っておりました。しかし新たな手術前治療では、手術前に免疫チェックポイント阻害薬を投与します。
 
 手術前治療の症例で、非常に効果があった方をご紹介します。初診時のレントゲンで大きな腫瘍がありまして、CTで見ると気管の背側を圧迫するような巨大な腫瘍でした。これはもう手術いないほうがいいのではないかと思いましたが、うちのカンファレンスで術前治療を行って手術を行うという方針になりました。結果、非常に術前治療が効き、腫瘍がかなり縮小しました。転移リンパ節もかなり縮小しました。術前に免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤を3コース行い、腫瘍がかなり縮小しておりましたので、ロボット支援下で右上葉の切除を行うことになりました。手術で切除した組織、断面を見ると、腫瘍細胞は全く残っておらず、病理学的に完全奏効という結果でした。この方は術後10日目に自宅に退院されました。

がん遺伝子パネル検査について

 次にがん遺伝子パネル検査についてご紹介させていただきます。がん遺伝子パネル検査ですが、癌の組織、もしくは患者さんの血液を用いて一度に大量の遺伝子を調べ、癌の原因となっている遺伝子異常や、遺伝子異常に応じた治療を見つけるための検査となります。

 適応の対象となるのは、標準治療がない、または終了が見込まれる固形がんの患者さん。または造血器腫瘍、類縁疾患の方です。どの段階で標準治療が終了、終了見込みになるのかは、患者さんの全身状態が検査を受けられる状態かなどによっても変わります。つきましては、担当医の先生が見極めた上で検査を受けられるかどうか判断します。

 日本では一生に一度しか受けられないという制限がありますので、タイミングが非常に重要になります。検査自体に1か月以上かかるので、余命が1か月以上なければできません。そういったところも判断する必要があります。標準治療実施前の場合や全身状態が思わしくない場合は今のところ検査を受けることはできません。

 がん細胞をがんパネル検査に出し、数百個の遺伝子を網羅的に検査します。変異があった場合、それに対する治療薬があれば治療することが可能です。まだ治療薬が確立されてない場合も臨床試験などにご紹介できるケースもあります。

 2019年6月から保険診療が開始され、2025年10月31日までに11万6586人の方ががんパネル検査、CGP検査を日本で受けています。2025年の10月は2400人の方が受けております。

 検査しても全く推奨治療が出ないということも多いです。がんゲノム情報センターのデータでは、2019年から2022年6月までの3万822症例のうち、治療薬の選択肢が提示されたのが大体45%。そのうち10%の方が治療薬を投与したという結果が出ております。

 福島医大にご紹介いただいた方の自施設の患者さんの53症例を見ると、推奨治療が示された方は53例中6例おり、30%の方に推奨治療が示されていました。肺がんが一番多くて11例。胸腺がん、悪性胸膜中皮腫、脂肪肉腫や小腸がんの肺転移などもありました。16例のうち9例が保険診療で、臨床試験にご紹介できたのが6例と、患者申出療養が1例です。また、偽陰性の可能性がある方とかもがんパネル検査を行うことで拾える可能性があります。また、推奨治療がなかった場合でも耐性機序も見つけることができますので、その後の治療方針などの決定にもつながる可能性があります。

 がん遺伝子パネル検査の流れですが、まず患者さんのがん組織、もしくは血液の検査を行い、解析します。その後エキスパートパネルという専門家の会議で治療方針などが話し合われます。そこで決められた治療方針などについて主治医の方に報告が上がり、患者さんにご説明することになります。

福島のがんゲノム医療提供体制と、会津中央病院のこれから

 現行のがんゲノム医療提供体制ですが、「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」という3種があります。中核拠点病院と拠点病院というのは厚生労働省から指定されております。東北地方の中核拠点病院は東北大のみです。全国で13か所しかありません。医療拠点病院も福島県にはなく、東北では山形大学のみです。その下にがんゲノム医療連携病院というのがあります。
 
 がんゲノム医療連携病院は中核拠点病院や拠点病院から指定されることになっており、最近までは福島県だと福島医大だけでした。しかし10月からいわき市医療センター総合南部東北病院が医療連携病院に指定されております。福島県立医科大学は実施施設でエキスパートパネルが可能になりましたので、そちらでエキスパートパネルをして、患者さんに推奨治療などを説明するというのが今の現状です。

 今後の話をしますと、会津中央病院さんで会津地方のがんゲノム医療連携病院もお願いできないかというお話があります。大体半年ぐらいかかるということですので、今後、会津中央病院でがんパネル検査を出せるようになるかなと思います。これまでは福島医大の方に紹介して、患者さんにも行ってもらってという流れだったので、会津地方で連携病院になれたら患者さんにとってもいいのかなと思いまして、今進めているところです。

会津中央病院 がん治療センター所長

福島県立医科大学 地域集学的がん治療学研究講座 准教授
呼吸器外科学講座 准教授

渡部 晶之 先生